斎賀時人/『怪異の掃除人・曽根崎慎司の事件ファイル 生ける炎は誰が身を喰らうか』(宝島社)
第10回ネット小説大賞において『怪異の掃除人・曽根崎慎司の事件ファイル 生ける炎は誰が身を喰らうか』で
受賞となった長埜 恵先生に独占インタビューを敢行!
前半では『受賞作の見どころ』、後半では『小説を書くときのコツ』などを伺いました!
ぜひ最後まで読んでみてください♪
名状しがたいオカルト事件 這い寄る狂気はすぐそこにある
怪しげな男、曽根崎慎司は、警察では手に余る名状しがたい怪事件を請け負う「怪異の掃除人」だ。そんな彼のもとでアルバイトをする竹田景清も、不可解な事件に巻き込まれていく。
街中で見つかるちぎれた小指。吸えば溺死する漆黒のタバコ。体の一部が喰われる夢。
そして、生ける炎を信仰するカルト教団。
狂気に呑み込まれてしまえば、終わり。
闇の底から這い寄る怪異に立ち向かう、ホラーサスペンス開幕。
――――この度は受賞おめでとうございます! 長埜先生が第10回ネット小説大賞にご応募いただいたきっかけを教えてください。
ネット小説大賞を知ったのは、『小説家になろう』に登録した3年前に、サイト内のお知らせ欄で見かけたことがきっかけです。
そのときから応募を続けてきて、第10回コンテストでも「何かの間違いでもいいから受賞してくれ!」と片っ端から自分の作品を応募していました。
――――入賞を知ったときはどのようなお気持ちでしたか?
「何かの間違いじゃないか?」と思いました。
どうやらそうでもないらしいとわかってからは、まず家族に話しました。
「何かの間違いじゃないか?」と言われました。
――――めちゃくちゃシュールです……(笑)! その後、お祝いなどはされましたか?
実は受賞後、間髪入れず人生初の全身麻酔手術を行うことになり、お祝いは有耶無耶になりました。
人生の一大イベントがこんな短期間に密集することってあるんだな、と手術台の上で思いました。
――――当時は本当に心配しておりました。無事に退院されて本当に良かったです!
その節はお気遣いいただき、本当にありがとうございました! 今は元気です。
――――早速ですがストーリーについても伺っていきたいです! 不気味な怪事件を解決していく本受賞作の主役となる、曽根崎と景清について教えてください。
曽根崎はもじゃもじゃの髪に鋭い目の下にクマがあってダラしなく見える一方、スーツはきっちりと着こなしている、どこか怪しい31歳・独身男性です。表向きはオカルト専門のフリーライターをしている彼には、不気味な事件を解決する「怪異の掃除人」という裏の顔があります。
生活能力が皆無な彼は、お金さえ出せば割となんでもやってくれる大学生の景清を雇い、身の回りのことを任せています。お人好しでお金に弱い景清は、曽根崎にボーナスをチラつかされるがまま、ともに事件に巻き込まれていきます。
鋭い知性と合理性に振り切った倫理観をもった探偵、いわゆるホームズ役が曽根崎。探偵を支えるお人好しな助手、いわゆるワトソン役が景清です。
――――二人の軽快なやりとりが楽しい一方、怪異はかなり不気味な仕上がりになっていますよね!この物語の着想のきっかけは何でしょうか?
H.P.ラヴクラフトが作り出したコズミックホラー(※1)シェアワールド(※2)『クトゥルフ神話』の世界観で、冒涜的な神話生物に挑むバディの物語を読みたいと思ったのがきっかけです。
(※2)シェアワールド: 複数の作家による一連の創作物からなる架空の世界観のこと
――――作品のルーツが垣間見えますね……! この作品で先生が描きたかったことはありますか?
まず「神話生物などの不可解な存在に翻弄され、人としての領域を踏み越えてしまった者達のドラマ」を描きたいと思いました。
――――たしかに、主役の二人が挑んでいく怪異はかなりスケールも大きく、解決が困難なものですよね。
だからこそ、二人は共に事件を乗り越えていくに連れて、互いに必要不可欠な存在になっていきます。
そんな二人の関係性の変化や濃度も、ぜひ見ていただければと。
――――出版にあたってかなり文字数を減らし改稿したとのことですが、WEB版と小説版の違いを教えてください!
小説版は、全4章からなる1冊完結型となっています。大きな流れは変わっていませんが、展開の速度感がWEB版とは段違いです。爆速で物語が進みます。
――――書籍版のイラストがとても味わい深いと思ったのですが、先生の感想を伺いたいです!
もともと私が斎賀時人さん(担当イラストレーター)の絵に一目惚れして依頼をさせていただいたのですが、完成品は想像以上に素晴らしくて感動しました。
妖しげな美しさを残しながらも、絶妙なタッチでキャラクターの個性を表現してくださっています。「表紙買い」される本にしていただきました。
――――最後にファンの皆さんと、本作が気になっている方に向けてのメッセージをお願いします。
ファンの皆様には感謝してもしきれません。
『怪異の掃除人』シリーズは、続編の『続・怪異の掃除人』『続々・怪異の掃除人』と、しぶとく続けてきました。これも読者の方の存在があってこそです。
正直、これまで筆を折ろうと何度も思いましたが、そのたびに「小説を待っていてくださる方が一人でもいるなら続けよう」と踏ん張ってきました。ありがとうございます。
そして、『怪異の掃除人』が気になっている方のなかでも、特に下記のような要素が好きな方であれば、ぜひとも拙作をお手に取っていただければと存じます!
自分の好きなものを全て詰め込みました! よろしくお願いします!
試し読みもできる!『怪異の掃除人』
特設ページはこちら
――――小説はどんなツールで書かれていますか? また、執筆の環境づくりで工夫されていることも知りたいです!
現在は主にMicrosoft社のWordを利用していますが、『怪異の掃除人』自体は全編、スマートフォンの文章作成アプリで書きました。やはり、どこにいても書けるのは便利です。
環境づくりでいえば、長時間同じ姿勢にならないことが大切だと思います。いい椅子も重要ですが、それ以上に適宜体を動かすのがいいかなと。一緒にスクワットしましょう。
――――『小説家になろう』で連載するにあたって、書籍化するために意識していたことはありますか?
とにかく、書いたものを片っ端からコンテストに応募していました。
実は同タイトルは、何度もネット小説大賞を落選しています。けれどしつこく応募し続けた結果、第10回ネット小説大賞で小説賞を受賞することができました。
続けてさえいれば、いつか誰かの目にとまるかもしれません。「書いて出す」は鉄則かなと思います。
――――すべての作家さんに伺っているのですが、なろうで人気連載にするために意識していたことはありますか?
正直こちらに関しては申し上げられることがありません……。
というのも、現時点(2023年1月)で『怪異の掃除人』は1万ポイントに及びませんし、ほかの私の作品も同様だからです。
そんな私が書いた小説でも受賞できたので、ネット小説大賞は懐の深いコンテストだなぁとしみじみ感じます。
――――ポイントと作品の面白さは必ずしも一致しないなと、運営していてもよく思います。長編のシリーズを書かれている先生ですが、執筆に詰まることはありますか?
執筆は永遠に詰まっています。せっかく書き溜めたものを消すことも多々ありますし、詰まったままになっていることもあります。
けれど、一度書くのをやめてしまうと、次に書き始めるのに凄まじいエネルギーが必要になります。なので、日々ちょっとでも書き続けることが、打開に繋がるのではと思います。
――――設定を作る際の資料集めなど、どうされていますか?
まずはインターネットで検索して、詳しく載っていないようなら図書館へ出向きます。
Wikipediaはとても便利ですが、校正さんから「これ、Wikipediaではこう書いてるけど、裏付けする資料は見つかりませんでしたよ」と指摘されてからは、使い方を見直すようになりました。
文献と併用できたらそれが一番です。
――――執筆前に、プロットを作成されていますか?
プロットは、作品によって作成する時と作成しない時とまちまちです。ただ、『怪異の掃除人』においてはプロットがないと何もできません。
プロットの項目は、大まかなあらすじと、すでに明かされている秘密、この章で明かされる秘密、キャラクターの感情の推移や成長などでしょうか。
実はプロット作成についても勉強中で、書きながら自分にしっくりくるプロットを探しています。
――――キャラクター設定は、どこまで事前に決めていましたか?
キャラクター設定は、大まかな容姿と性格を決めたらあとは小説に放り込みます。
それこそTRPGのキャラクターシートは、キャラクター設定を作るのにとても便利なツールじゃないでしょうか。あとは物語に馴染ませるなかで、キャラクターの性格を深考していきます。
――――ざっくりと決めてから、だんだんと深堀していくのですね! 舞台設定はいかがでしょうか?
『怪異の掃除人』はクトゥルフ神話をモチーフとしているので、舞台設定のベースは既にできあがっていました。
もちろん、既存の世界観をどこまで取り込み、どこをアレンジするのは考える必要はありましたが。そこに現代ならではの要素を組み合わせています。
――――全体的に、設定を作り込みすぎずに書きだされるイメージでしょうか?
はい。とはいえ、重大な設定だけはあらかじめ決めていました。
具体的に挙げるなら、キャラクターの秘密や関係性、世界の裏側で起こっていることなどです。これを示唆する伏線をあちこちに張っておくと、後々になって読者の方に「これってそういうことだったの!?」と驚いてもらえる物語が作れるかなと目論んでいました。
私はよく、わかりやすい伏線、よく読んだら気づく伏線、誰にも気づいてもらわなくていい伏線を張っています。
冬眠前にどんぐりを貯蔵するリスのごとく、よくこれらを忘れますが。しっかり管理していきたいです。
――――伏線にレベル感があるのですね! そう言われるとワクワクして探したくなります。『怪異の掃除人』というキャッチ―なタイトルは、どのように生まれたのでしょうか?
私は本当にタイトルをつけるのが苦手なので、いつもシンプルなものか、一言で内容をすべて説明できるタイトルにしてしまいます。
なので小説版タイトルの『怪異の掃除人・曽根崎慎司の事件ファイル 生ける炎は誰が身を喰らうか』も、決定するまでかなり編集さんと相談を重ねました。
――――文章を書かれるときに、意識していること、注意していることはありますか?
意識していることは、誰がどんなセリフを喋っているかを分かりやすくすること、そして雰囲気に緩急をつけるために適宜ユーモアを挟むことです。後者は好みが分かれるところだと思いますし、現在も研究中です。
加えて、作中で難しい話をし過ぎないことも意識しています。『怪異の掃除人』は、どこにでもいる大学生の景清の視点で話が進みます。曽根崎が難しい話をしても、景清は容赦なく「よくわかりません」とぶった切ります。
物語で扱うテーマや構成にもよりますが、主人公の手に余りそうな話は注意深く取り扱うようにしています。そのほうが、読者の方も文章が引っかからなくて読みやすいかなと思うので。
――――最後に、作家志望の方々や、次回のネット小説大賞応募者にアドバイスがあればいただけますと嬉しいです。
すでに小説を書いていらっしゃる方なら、それだけでもう十分作家になれる要素を有していると思います。
そこからいかにして作家になるかは十人十色です。どんな話を書けば読者にウケるのかを研究して上り詰める人もいれば、完成された感性によって莫大な支持を得る人もいますし、私のようにとにかく好きなものを詰め込んで書いた結果、運良く拾い上げられた人もいます。
なので、私は「好きなものを自由に書いて作家になりたい!」という方に言葉を送ろうと思います。
どうか、今の自分の「好き」を大切にされてください。「好き」は熱です。自分だけに留まらず、他者にまで伝搬し広がる熱です。自分の「好き」を極めてください。脇目もふらず「好き」を書き続けてください。
この「好き」は、あなたが生きていくなかで多様に変化すると思います。怒りを覚えて「好き」を知ることもあれば、悲しみに沈んでやっと「好き」とわかることもあります。どれもすべて、あなたとあなたの小説にとって必要です。ずっと覚えていて、抱え続けて、どうかそれをこの世界で唯一のあなたの言葉で書いてください。
その熱はきっと広がります。広がった先の一つにある受賞を、私に似たあなたが取ってくれるならとても嬉しいです。
書くの、楽しいですよね!! 今後もお互い頑張っていきましょう!!
長埜 恵先生先生、この度はロングインタビューをありがとうございました!
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