第5話『本山らのとネット小説大賞を読みませんか？』【死にたがりな少女の自殺を邪魔して、遊びにつれていく話。】

校生活最後のクリスマス、主人公は死神から「時間を巻き戻すことのできる時計と引き換えに、寿命を譲ってくれませんか？」という取引を持ちかけられます。自殺願望がありつつも、最後の一歩が踏み出せずにいた彼は、「楽に死ねそう」と思いその取引を受け入れることに。余命三年になる代わりに、時間を巻き戻す力を手に入れることとなったのです。

特殊能力を手に入れた主人公は、その力で豪遊したり、金儲けをしたりしますが、そんな生活にも次第に飽きていきます。

残り余命二年となったクリスマスの夜、少女が飛び降り自殺をしたというニュースを見て、彼は「時間を巻き戻して、自殺を邪魔する」ということを思いつきます。

しかし、不器用な彼は自殺を諦めさせる手段として、百万円渡し、金でいじめを解決する手段を提案。少女はそれを拒絶し、泣きながら逃げ帰ってしまいます。自殺を邪魔することには成功したものの、年下の女の子を泣かせてしまったことへの罪悪感に駆られる主人公。残りの人生を穏やかに過ごすためにも、少女に死なれてしまっては後味が悪いと考え、彼女が自殺しなくなるまで邪魔し続ける決意をするのです。

死にたがりの少女、一之瀬月美は、何度邪魔をしても飛び降り自殺や線路への飛び込み自殺を止めようとしません。そこで、「生きていることの素晴らしさを教えてやろう」という名目で映画館や、ゲームセンター、水族館などなど、色々なところに連れ回していくことに。自殺を邪魔する度に一緒に遊ぶ日々を送り、徐々に打ち解けていく二人。

それでも、少女の自殺願望は無くなりません。

主人公はなんとか「花火大会に一緒に行こう」という約束、すなわち、花火大会までは自殺をしないでもらうという約束を取り付け、夏祭りやプールといった夏らしい遊びも満喫します。そんな中、花火大会の二日前に主人公は風邪で寝込んでしまいます。少女に看病してもらい、安静にしていたその翌日。少女が再び自殺を決行します。時間を戻し、飛び降りる寸前のところで少女を見つけ、自殺を止めることに成功する主人公。自殺しないという約束を破った自分をも受け入れてくれた主人公に、少女はついに心を開いて自殺に至った経緯と悩みを打ち明け、自殺をやめることを決意するのでした。

ここまでが物語の前半部分です。『死にたがりな少女の自殺を邪魔して、遊びにつれていく話。』ですが、少女の死にたがらなくなってからが本番なのです。

最初はただ罪悪感を払拭したいがために始めた自殺の邪魔でしたが、一緒に過ごしていくうちに、少女がかけがえのない存在になっていることに気付いた主人公。少女の気持ちも同じようで、積極的にアプローチしてくるように。

しかし、命のタイムリミットは刻々と迫ってきます。

死に別れることで少女を傷つけたくない、でも、関係を断ち切るのも辛い。

そんな葛藤の狭間にいる主人公の元に、再び死神が現れて―――。

ここから先は、私の口からは語りません。“死にたがり”だった二人がどのような最期を迎えることになるのか、あなたの目で直接確かめてみてください。

自殺を縁として出会った、決して健全ではない共依存的な関係を描く物語。

ですが、二人の間にあるのは純粋な愛であるというところが、どこか影のある美しさを醸し出しており、この作品の魅力になっているのではないでしょうか。

そして何より、巧みな構成力に、感動しました……！前半と後半とで反転し、変わっていく二人の関係性の描写が良かったです。徐々に心を開き、素直になっていくヒロインのかわいさも抜群です！

エンディングも本山的には大満足……！

時を巻き戻す力と余命と恋物語。これらのキーワードに惹かれる方は、読んでみてはいかがでしょうか。