大罪踏破のピカレスク~人間に絶望したので、女神から授かった能力で誰よりも悪役らしく生きていきます
鎖比羅千里
あらすじ
「奪おうとするからには、奪われる覚悟もあるんだろう?」
人の悪意に翻弄され死した後に異世界に転生した少年。
世界の片隅、辺境の村で暮らしていた彼は、ある日ふとしたきっかけから村長の息子の罠に嵌められて処刑されそうになる。
処刑の直前、隙をついて村から逃げ出した彼は、追っ手から逃れ森の中を彷徨ううちに謎の遺跡を発見し、その中で「女神」と名乗る存在から、ある取引を持ちかけられる。
かくして「女神」と契約を結び、代価として「力」を与えられた少年は、凡百の人間の悪意・悪性を嘲弄し、踏み躙る「悪役(ヴィラン)」となるべく進み始める。
コメント
キャラクターひとりひとりに深い設定があり、それが丁寧に描写してあるのがいいですね。サブキャラであるアグナッツォの無念さやリリスの悲嘆なども伝わり、感情移入しやすかったです。
またエリオスの飄々とした悪役らしい姿、シャールのどん底から這い上がる主人公のような姿など、キャラに多くの見どころがあったのも好印象でした。
ストーリーもエリオスのバックグラウンドなどから人間の醜さを描かれており、ダークな世界観を感じることができました。
聖剣と女神アリアを巡る伏線、ひとり逃げたリリスなど今後の展開が楽しみです。
今後の活躍を応援しております。
めざせモフスロ! 〜転生令嬢はモフモフなスローライフがお望みです〜
秋乃ゆず
あらすじ
私は高槻美鈴。二十五歳で階段から転落して目覚めたら、十二歳の伯爵令嬢、メイベルに転生していた!
せっかくの転生、しかも伯爵令嬢とくれば、念願のモフモフいっぱいのスローライフを楽しもう!
行方不明の初恋の人も探しに行こう!
そう思っていたのに、領地は問題が山積み。
両親は私たち姉妹も領地もほったらかしだし、お兄様も行ってしまうし。
えぇっ! 私がなんとかするの?
あれれ? いつの間にかニャンコ聖女様って呼ばれてる?
カワイイ妹とベッドで気持ち良くなって寝てたら、周りの人が癒されてる?
不思議なご加護と持ってる力で何とかなる?
スローライフな領地づくりを目指すわよ!
コメント
プロローグからエピローグまで、メリハリのきいた深いストーリーなのに、ほのぼのとした調子で進むところが面白く、肩の力を抜いて読むことができます。
また、主人公を通じて生き方を考えさせられます。
ぜひ、多くの人に読んでもらいたいです。
外はゾンビだらけ。だから僕らは立てこもる
スーパーブラックホーク
あらすじ
森川誠一郎は都内にマンションを借りて大学生活を送る19歳の少年だったが、ある日のサークル帰りに突如起きた大規模なアウトブレイク、そして大量のゾンビから命からがら逃れ、何とか家に辿り着く。
しかし、わずか数日で外はゾンビだらけとなり、ベランダからライトを照らしたり、叫んでも生存者の返事はなかったことから、次第に世界で生き残ったのは自分だけなのでは?と疑い始める。
そんな中、ふとマンションに迷い込んだ同い年の生存者の美少女、来栖かなめを下心と寂しさから家に招き入れ、彼女と憎まれ口を叩き合いながらも生活していき、いつしか互いに依存しあう関係となっていく。
銃もなければ特殊能力もない2人は、引きこもってマンションの中を散策し、物資をかき集めるままごと暮らしを送りながら、救助を待つのだった。
コメント
少々毒混じりで冷静さな主人公の独白がいいですね。おかげで荒廃した世界が明瞭に語られていました。生きるためにやれることをこなしていく展開が清々しかったです。
スプラッタな状況下、怠惰に過ごしているかなめの様子が印象的でした。先が気になるフックになっています。
生活感の漂わせ方がうまく、主人公とかなめの関係が進展する様子もユニークに描かれていました。各人の変わった趣向等、いくつかの前振りがどのような形で未来に繋がるのかが気になります。
また、許嫁登場のエピソードは衝撃的でした。続きが楽しみです。
嫌われの悪役令嬢〜悪役っぽいのは見た目だけです!〜
つきかげみちる
あらすじ
公爵令嬢ディアナは、十歳の誕生日を前に自身が乙女ゲームの『悪役令嬢』であることを知ってしまう。
『悪役』としての最悪の結末を変えるため、周囲との関係を改善しようと奮起するが攻略対象者たちからは微妙な反応の数々。
そう、彼女はすでに嫌われていたのだった……!
威圧感のある派手顔と長身で悪役っぽさ満載……だけどそれは見た目だけ。実は中身はドジっ子でした。
そんなディアナが『悪役』にならないように地道に頑張るお話。
コメント
よくある転生悪役令嬢ものかと思いきや……この悪役令嬢、見た目に似合わずめちゃくちゃドジだ! だけど、そこが可愛くて一気に読んでしまうような不思議な物語でした。
主人公は10歳の悪役令嬢のディアナに転生したものの、その時にはすでに攻略対象者たちに嫌われていた。そこで彼女がとった行動は謝罪だった。至ってシンプルな方法だが、その真っ直ぐさが徐々に周囲を変えていった。その様子を見守るのが楽しい。
そして独特な魔法設定も面白い。光魔法を扱う『ルーメン』と闇魔法の『テネブライ』の二つの属性に分かれていて、その2クラス対抗の学園祭などが繰り広げられる。
そして最もおすすめなポイントは、婚約者の王子のキャラがなんとも愛おしい所だ。最初はディアナに対して冷淡で塩対応だったのに、途中から不器用な溺愛っぷりを見せ、とにかく可愛い。そしてその他にも魅力的なキャラが多く登場する。最初はディアナを嫌っていたはずの男性陣たちが鈍感なディアナに振り回される様子はとにかく面白い。
そしてラストはきちんと恋愛小説として締めていて、とても良い読了感でした!
愛を唄え♪銀座いなりの恋占おかし噺
青龍明良(旧・名月明)
あらすじ
時は大正、所は帝都銀座。ある夏の終わり、一人の美少女が田舎から上京してきました。彼女の名前は笑美恵美子(えみ えみこ)。
何だかいつもオホホホと笑っていそうな名前ですが、この乙女は不幸のどん底に落ちている真っ最中。「男を不幸にする」という迷信がある丙午(ひのえうま)生まれだったせいで、お見合いが連戦連敗、傷心のあまり家出して銀座にやって来たのです。
「もうこうなったら、銀座で遊ぶだけ遊んで、死んでやる!!」
そう決意していた恵美子でしたが、上京してすぐにスリに財布をとられてしまいます。恵美子は父直伝の「護身術」でスリの悪漢どもをボコボコにしますが、ついでに近くにあったぼろい稲荷神の祠もボコボコに壊してしまいました。すると……。
「神である私のお家を破壊するなんて、とんでもない罰当たり娘ですぅー! 罰として、恋の縁結びのお手伝いをしてもらいますからね!!」
なんとビックリ! 破壊された祠から可愛らしい女神様が現れ、恵美子にとんでもない要求をしてきました。彼女は食物神(本職)&縁結びの神(本人は恋愛経験ゼロ)と名乗っていて、しかも銀座の「カフェーいなり」というお店で女給さんをやっているらしいのですが……はてさて、どうなることやら?
ややコメディ要素が強すぎる大正浪漫ラブコメ、お呼びでなくても堂々開幕です!!
「……そんなことより、なんで神様が人間のお店で労働しているのですか?」
コメント
思わず笑ってしまうコメディー的な会話と、心に染み入る人情が温かくて可愛い、凄く面白い作品だと感じました。
時折混じるメタ風のツッコミが妙に毒舌で好きです。
最初派手に暴走しているイメージが強く感じられた恵美子も、和樹とのやり取りを見ていて、本来の人柄が窺え元より好感度が高かったですが更に好きになりました。
駄女神だと散々言われている望子は勿論のこと、カフェーいなりの従業員が揃いも揃ってアクが強く、それでいてまた空気感がビシバシと伝わってくるため、自分もいるかの様な気分になれます。
当時の流行歌や文学作品、風俗に至るまで時代背景の考証がしっかりしている事もそれに寄与していました。
呪怨の女帝は幸せになりたい!
のぽぽん
あらすじ
禁忌の儀式って、私がしたんじゃないのに……
その光景を瞳に映すだけで何もできずに見ていることしか出来なかった。
友の、母の、父の、知り合いの、その命がなくなるその時まで、身動きも、まばたきも出来ずに瞳に映し続けた。私自身、胸を貫かれ溢れる血液が温かいと感じる中で死の訪れを待っていることしか出来なかった。大量虐殺により同族の命を奪われた理由は『大罪の化身を呼び出す生贄とするために丁度良かった』から。”災厄の悪夢”としか呼べない大量虐殺犯は禁断の儀式で召喚した『何か』と共に飛び立っていってしまった。
けれど、”災厄の悪夢”に呼応し召喚されたのは大罪の化身じゃなかったらしいの。誰もいなくなり、死の間際に瞳が映す魔法陣の中央で”災厄の悪夢”を「儀式だけで望みが叶うと思うなんて莫迦にしてるわね」と嘲笑うように現れた真の『大罪の化身』に憑かれてしまった私。私はただ平和に、穏やかに、人並みに、いつか素敵な旦那様を捕まえて小さな家庭を切り盛りするのが夢だったのに・・・・・・なんで私に憑いてくるのよ!?禁忌の儀式してアンタ呼んだの私じゃないのに!!!
禁断の儀式で呼び出された大罪の化身を宿し、何もかもを失ったけど私が悪い訳じゃないんだから!きっちり復讐をして、普通に幸せになりたいの!小さくとも温かい平和な日々を過ごしていきたいの!!これは、種族絶滅という禁断の儀式で呼び出された『大罪の化身セルティ』と、セルティを身に宿した『ちょっと殺意高めな女の子リーフ』の復讐と幸せを掴むための物語。
コメント
惹きつけるような開始から重いかと思いきや、復讐譚でありながらストレスなく読み進められ気付けば一気読みしていました。
主人公のリーフの不器用さや女子力の無さ残念な部分と、足を止めないカッコ良さが面白く、人との掛け合いや展開もテンポ良く常に先が気になる物語です。
ランキングだけでなく、こうした面白い作品に出会えるのが、なろうの良いところだと思い出させてくれた作品です。
海の神さま
ちゃんまん
あらすじ
俺、島野大和はいつものように、瀬戸内海に浮かんで、マイボートで釣りをしていた。
あまりにも魚探に映る魚影が無いので、魚影を探し移動しているうちに、素晴らしい反応が出る場所を発見する。
早速釣ってみると、それは釣られると直ぐに消えてしまう異世界の魔魚だった。俺は異世界に召喚されてしまったのか?
魔魚を釣って得られる不思議な力と、それをもたらせた者に、大和の人生は動き始める。
釣りシーンの多い、ゆる〜い部分異世界釣り物語です。
コメント
アマビエとの出会いによる主人公の運命の転がり方が、とても面白かったです。
釣り好きの面と、人助けの面。二つの軸がうまく絡み合いながら、ラストへと繋がっています。どららもよく練られており、丁寧な構成が見て取れました。
主人公を取り巻く女性陣がそれぞれに個性的で、物語が華やいでいます。元カノの病を治すエピソードが心に染み入りました。双方にとっての過去の清算のようで、前向きな一歩へと繋がっていたように思えます。
龍を釣るエピソードはファンタジー色に溢れていて、この物語のクライマックスに相応しいです。よい心持ちで読み終えることができました。
治安調査会議~本庄朔夜の考え方~
赤瀬紅司
あらすじ
時は二千五十年。
舞台は神戸沖の人工島、いざなみ県、いざなみ市。
本庄朔夜は『治安調査会議(通称:治安会)』なる内閣直属の非公開執行組織に身を置く公務員だ。業務といえば、なんでもござれ。がさいれ、人質救出、麻薬捜査、カウンターテロなど、多岐に渡る。なんでも屋的な側面が多分にあり、中でも荒事が専門である。
そんな仕事を続けていく中で、朔夜は三人の女性と親密になる。
一人は女子高生。
一人は妙齢の隣人。
一人は幼女。
これは、本庄朔夜と女性らとの交流を主軸とした、彼の行動記録である。
コメント
かなり高品質な10万文字作品。
推薦理由1、女性の心理描写が見事。この作品には様々な美女が4人出てきますが、本当に実在していると感じさせるほど見事に描かれています。
推薦理由2、戦闘描写が見事。素人には難しくなりがちな銃を使う戦闘描写がとても分かりやすく、且つとてもカッコいいです。
推薦理由3、主人公の内面がめちゃくちゃカッコいい。この作品に登場する4人の美女全員が程度の差はあれど主人公に惚れている、または惚れますが、主人公の内面が本当にカッコいいので納得です。
エロい美女+カッコイイ戦闘シーン+内面がカッコイイ主人公の3拍子揃った極上エンタメハードボイルド作品にしあがってます。
冤罪探偵
篠崎京一郎
あらすじ
うっかり殺人を犯してしまった島村幸次郎。
だが捜査に当たったヘッポコ刑事とポンコツ探偵は大ハズレの推理と共に別の人間を逮捕し、結果捕まらずに済んだ島村は呑気にハンバーガーを齧っていた。
しかし安堵したのもつかの間、翌日彼の前にはまたもヘッポコ・ポンコツコンビの姿が。
まさか真相がバレてしまったのか!? と島村は身構えるも、どうやら彼らは例の事件と同時に発生した凶悪事件の真犯人として島村を連行しようとしているようであった。
無論それは冤罪であるのだが、無実を証明するには逮捕を免れた事件について触れなければならない。
「三日だ! 三日で本当の真犯人、俺が見つけてやるよ!」
無罪放免か、それとも死刑か。
島村幸次郎の未来はどっちだ!?
コメント
序盤で明らかになる冤罪に対しての諸々、とてもキャッチーな展開でフックになっていました。畳みかけるように逆の立場へと追いこまれての奔走は愉快です。時間が区切られていたからこその緊張感が漂っていました。
デタラメな推理でありながらも、それなりに筋が通っているのが探偵の恐ろしいところです。そうした前振りや伏線張り等がうまく、解決まで綺麗に導かれていました。
また主人公の設定がよく練られていて、憎めないキャラに仕上がっていたのもよかった点の一つです。探偵もののお約束を絡ませつつも新鮮に感じられて、最後まで楽しませて頂きました。
恋は嘘と文学の隙間で
浦登みっひ
あらすじ
主人公の遠田永久は作家志望のアマチュア物書き、いわゆるワナビである。
働きながら小説を書き、公募に落ちた作品を国内最大の小説投稿サイト『小説を書こう!』に投稿する日々。感想も評価もブックマークもほとんどなく、PVはゼロ行進。だがそんなある日、彼の作品に初めて感想が書かれていた。
一件の感想から始まる、懊悩するワナビとスコッパーの恋の物語です。
コメント
すごく面白くて毎回更新が楽しみなのですが、なぜかアクセスがとても少ないので、もっとたくさんの方に読んでほしいです。
主人公とヒロインの関係が少しずつ進んでゆくことにじれったさを感じつつ、けれどその距離感が心地よいです。
主人公が小説投稿者、ヒロインが読者という関係性が、とても共感があると同時に、すごく人間らしくて可愛いです。
あなたが笑うまで私はトイレに行かない
高梨愉人
あらすじ
就活に失敗し、ブラック企業を経てフリーターとして生きるショウは、”笑うことができない”という体質のせいで苦労を重ねて来た。
ある日バイト先の友人のケンに連れられてお笑いライブに足を運んだショウは、そこで目にした若き天才女芸人・アキのネタに衝撃を受ける。
後日再び彼女を観にライブに赴いた彼の人生は、その夜から予想外の展開へと動いていく。
コメント
美容師とのやり取りを前振りにしつつ、お笑いのライブという流れ、よく練られた序盤になっていました。ライブの内容、そのものについても楽しかったです。
元アイドルグループの話題等、伏線が張られており、全体を俯瞰すると丁寧な構成が見て取れます。余分なエピソードはそぎ落とされていて、必要分が凝縮されていました。
お笑いの軸を重要視していて、ラストまでぶれずに突き進んでいます。スピード感もありました。最後に二人が再会する場面に、すべてが繋がっていたように感じられます。よい心持ちで読み終えることができました。
コルシカの修復家
さかな
あらすじ
地球に埋蔵された資源が枯渇した未来。
絵画からエネルギーを得る技術が確立され、絵画が芸術としての価値を失った世界のお話。
地中海に浮かぶコルシカ島。絵画修復家の少年ルカは、ある日森の中で記憶喪失の少女ニノンと出会う。彼女には“絵画の声が聞こえる”不思議な力が宿っていた。
一方ルカの家では、地下室に保管していた絵画が窃盗団に盗まれるという事件が起こる。だが盗まれたのは絵画の一部で「島には全部で4つの絵画が隠されている」のだと父は告げる。二人は謎の絵画を追って、故郷を後にするのだった。
旅の途中で出会う傷ついた絵画、問題を抱える人々。彼らの悩みを修復しながら、やがてルカは大切なことに気づいていく。
島に隠された謎の絵画と少女の失われた記憶を巡る、ディストピア×ジュブナイルファンタジー。
コメント
この世界では人々は絵画からエネルギーを得ているが、エネルギーを取り出すと絵画は消滅する。その設定がまず面白い。
そんな現状にやや懐疑的な修復家の主人公や、絵画の声が聞こえる少女、自分の絵を認められたい画家など出てくるキャラクターは皆立体感があり応援したくなる。
各章でとりあげられる絵画に込められた思いや登場人物たちが繰り広げる多彩なヒューマンドラマも面白いが、島に隠された絵画の謎という本筋のストーリーを追うのも楽しい。
今一番更新を楽しみにしている作品です。
廃世のストレンジ・サバイバー
夢想曲
あらすじ
文明崩壊後の世界。高い身体能力と銃の扱いに長けた女性、ステアーが無法者共をなぎ倒す――。
現代から時が過ぎ、物語は西暦三三一八年、日本。
二九九九年に突如起きた核戦争。どこが始め誰が終わらせたか分からないこの大戦争は、日本に限らず地球上全てを炎で焼き尽くした。しかし、人類は核シェルターに避難し、僅かな数だけ生き延びて絶滅を免れたのだった。
ヴィレッジと呼ばれる核シェルターの中で僅かに生き残った人類は、その重い扉を開き、滅びた世界を目にする事となる。各地に散らばる小さな集落やシェルターはやがて全てヴィレッジと呼ばれるようになった。
シェルターや地上の残された物資を節操無く荒らしまわる荒くれ者、ブリガンドと呼ばれる彼らが川崎駅地下街のヴィレッジシェルターに迫っていた。
神奈川県川崎市の川崎駅、東口の朽ちた大階段の前に立つ女性。
厚手のコートにフィルター付きのマスク。そして腰には二丁の短機関銃。
荒廃した世界に生きる一人の女性は自分の事を守るのに必死な人々の中で他人の為に銃を取る変わり者……。
彼女は自分の住むヴィレッジを守る為に単身、悪漢達に狙いを定める。
今、終末の世界で新たな火種が燻り、大火となろうとしていた。
コメント
退廃的な世界で生きる人々の心情が生々しく鮮明に描かれていて、気が付けば物語の顛末を追うのに夢中になっていました。
千年以上未来のお話という事で様変わりした環境ですが、確立された世界観に裏打ちされていたので、しっかりとしたリアリティーを伴っていましたね。
それだけに現状はままならないと感じていたのもあって、途中気になっていた諸々の出来事は置き去りのままに終わるのかと思いきや、ステアーと別れた後の理緒をはじめとする登場人物のその後、そして再会も描かれる大団円は予想外で嬉しかったです。
また、自由に生きろという遺言がメイン二人の生きる原動力になる展開も熱くて好きでした。
銃剣突撃する怒れる低学歴と悩める高学歴のファンタジア
K@e:Dё
あらすじ
『今日は高学歴を殺せる特別な日だ』
空前の大不況によって満足な教育を受けられない。それどころか学費すら払えない。仕事もない。そんな低学歴高校生たちが選んだ職はE・SPORTS――ゲーム内で行われる疑似戦争だった。
一方、進学に必要な“実績”を求めて高学歴高校生たちもE・SPORTSに参入、低学歴と高学歴の対立は深まっていく。
低学歴で殺人マニアックの主人公“左右来宮右京子(さゆうきのみやうきょうこ)”には高学歴の兄がいた。左京という名の彼と右京子とは複雑な家庭環境が原因で仲が悪い。
もう二度とこの関係は変えられない。兄妹はお互いを密かに想いながらもそう諦めていたが、二人の所属するゲーム内国家が隣国との大戦争に突入したことを機に……?
学歴格差戦列歩兵青春ミリタリー。
コメント
凄まじい作品です。
設定の練り込みや登場人物の魅力もネット小説の域を遥かに超えていますが特に飛び抜けているのは文章力、超独特な文体で繰り広げられる心理描写は圧巻です。
特に本編終盤で主人公兄弟が回想をする場面での描写と番外編の主人公であるサトーが複雑な心境を吐露する描写は他では絶対に見られないと思います。
本格戦記で残酷で重い内容なので人を選びますが合う人にはとことん合う作品です。
異世界艦隊日誌
アシッド・レイン(酸性雨)
あらすじ
小説なんかでよくある異世界と繋がる話。
しかし、もし本当にあったとしてもそれはあくまで他人事。
自分には関係ない話だった。
ただ、僕は自分の好きな模型を作り、理想のジオラマを作っていく。
そのはずだったんだが…。
だが、今、目の前に広がる光景は間違いなく僕が作ったジオラマが現実化した景色だった。
港には僕が作った軍艦が…
空港には飛行機が…
基地には戦車やトラックが…。
すべてが実体化して存在感を示しており、ジオラマが実体化したことで歴史改ざんされてしまった島がここ、マシガナ本島だ。
そして、異世界と繋がってしまったがゆえに僕は巻き込まれていく。
異世界の日本に似たフソウ連合と言う国の命運をかけた戦いへと。
そして、それはこの世界を巻き込んだより大きな戦いへと続こうとしていた…。
コメント
「第二次世界大戦の艦隊ジオラマごと異世界に行く」という独自な展開に、とても興味を惹かれました。
しかもそのジオラマが本物として実体化するというので、「歴史ロマン+異世界転移」という二つのジャンルが組み合わさって、面白さが際立っていたと思います。
また「魔法」という概念がありながら攻撃用ではなく、あくまで補給に重きを置いてるのがいいですね。
こういう乗り物ごと転移というのは戦闘よりも補給や修理で苦戦するものですが、魔法によって補給をクリアしつつ魔法が戦闘に関わり過ぎないことで、あくまで乗り物での戦いをメインに据えているのがよかったと思います。
変身しないで縺ゅj縺ちゃん
夜明 空
あらすじ
かわいいものが大好きな、夢に生きる高校生、姫乃ありす。
彼女はある日流星群にぶつかって、魔法少女に変身した。
世界を守るため、彼女は今日も魔法少女ありすに変身して、魔法の力で敵を倒していく。
――――と、思い込んでいるのは彼女だけだった。
黒い怪物の姿に変身する少女。恐ろしい獣の姿に変身する少女。ドロリとした触手の姿に変身する少女。
異形の姿になった少女達は自身を『魔法少女』だと思い込みながら、世界を壊す。
街にはびこるドラッグ。ゴミ箱から見つかる人差し指。聖母様を崇める宗教団体。
昔見ていたアニメの魔法少女はただの幻だった。
魔法少女達はゆっくりと現実に気が付きながら、副作用によって壊れていく。
本当の敵は誰なのか。
自分が本当は何者なのか。
ずっと夢見ていた願いは何だったのか。
これは、願いと夢と現実に壊れていく、魔法少女になった怪物の物語。
コメント
ここまでブッとんだ作品、なかなかお目にかかれない、キャラクターの個性についても豊かなんてヤワな表現ではなく、ぶつかりあって事故を起こしているよう。
魔法少女になれると信じて、自分の中では魔法少女に変身しているのに、可愛い感じが恐ろしくなったり、オカシイことに慣れてきたころに更にオカシイことを重ねたり。
先なんて予想がつくはずもない、けれど気になって仕方なくなってしまう。そんな作品です。
ひとりむすめ
山下真響
あらすじ
高校三年生になった千代子にはパートナーがいます。
声が小さすぎる『夫』との共同生活をする中で、ある特殊な力を手に入れました。
池に棲む鯉が大海に出るまでのお話。
コメント
序盤の機械の音量を操作して夫の声のボリュームも上げるという発想の面白さと千代子のお嬢様然とした口調に少し不思議で可愛いお話だなと思いましたが異性の片親を持つ夫婦二人の抱える深い鬱屈とほんの少しの希望に、自らも闇中で微かな光を探し求めるような思いがしました。
ひとりむすめである女子二人は勿論、零と五十嵐もまた対比のようになっていて、他人から見て不幸かどうか、何を抱えて生きてきたのかにも拘らず人には人の人生があり、それは自分で選んでいくものなのだと、生き様で語っているように感じますね。
千代子と零は一緒にいるのか、京たちと再会するのか気になりました。
まつとし聞かば
夏野
あらすじ
時は文化年間、江戸。長屋で一人暮らしをしている十六歳の娘・雪(ゆき)はある日、怪我を負った浪人・辰巳(たつみ)と出会う。
看病を続けるうちに雪は辰巳のことが気になり始めるが……
何をしても自信が持てず、素性の知れない辰巳にとっても自分はただの都合のいい女ではないのかと、雪はそう思いながらも辰巳との縁を切れないでいた。
辰巳の目的とは、雪が長屋の住人から好ましく思われていない理由とは…?
——私は捨てられた。だけど、ずっと待っている。
ひとりぼっちの雪は、儚い望みを持ち続けていた。
孤独の雪と訳ありの辰巳の行末は、幸福か、それとも…
コメント
優しい文章と描かれる人間関係の儚さが際立った、これぞまさに和!
時代背景もしっかり描かれた、しっとりと胸打つ、余韻に浸れる作品。
機械細工職人と機械義手
天崎 剣
あらすじ
歯車の芸術、機械細工――美しさと精巧さを誇る工芸品に魅入られたライザは、右の腕が機械義手の職人、クリフォード・J・スミスに弟子入りする。
作品こそ美しいが、クリフォードはかなりの堅物。
他に弟子を取らなかったクリフォードがライザを弟子にした理由は。
そして、機械義手に込められたクリフォードの誓いとは。
徐々にクリフォードに惹かれていくライザ。しかし、クリフォードは一向に距離を縮めようとはせず……。
親子ほど年の差のある二人の時間は切なく流れてゆく。
お互いの気持ちに気付いたまま……。
コメント
機械細工とそれを製作する現場の様子を仔細に描いているのも美しさと臨場感が上手く表現されていて見事でしたが、何よりライザとクリフォードをはじめとする登場人物たちの人生を長く丁寧に描かれていた点に読み応えを感じました。
一番最後、クリフォードが亡くなった時も悲しかったですが、個人的にはキャシーが工房を訪ねてきた際、嫉妬に駆られて心乱れるライザの姿が見ていて一番涙ぐんだ場面ですね。
また、そんなライザに向けたジャックやクリフォードの言葉には自分も救われた気になるほど共感していたと気が付きました。
ジャックとライザが結ばれ驚いたものの、のちの家族の温もりが心地よかったです。
左近ちゃん 見参!
今岡英二
あらすじ
「左近ちゃん! この俺、石田三成の軍師になってくれ!」
島左近が、実は……女だったぁ!?
秀吉や利休、大谷吉継、茶屋の娘、果ては石田三成の命と貞操を狙うホモ忍者まで登場してのドタバタ戦国時代絵巻が──ここにいま、開幕!
コメント
私は今までなろうさんには登録していなかったのですが、たまたま目に入ったこの作品を応援するために登録したほど、面白かったです。
武将を女体化した作品は数ありますが、この作品は例えば途中に出てくる『飴袋屋』という甘味処はおそらく戦国時代から堺で営業している「かん袋屋」がモデルになっており、至る所に作者の膨大な知識や調査からくるリアリティが散りばめられていていて説得力があります。
冒頭の三成のキャラクターですでに引き込まれますが、文章も終始リズムよく読むことができ、戦国に詳しくなくとも楽しく読めると思います。
花柳村の猫は啼く
瑞月風花
あらすじ
大阪で起きた失踪事件には花柳村の猫が関わっていた。
コメント
広崎の心身に起きた事態そのものはあくまでも非現実的ではあるものの、悪夢を通しじわじわ忍び寄る得体の知れない恐怖には鳥肌が立ってしまって、都市伝説が最後に出てきたときは少しびくっとしたものの、後書きを見てほっとするくらいには作品にのめりこんでいました。
そもそもとして、化け猫の概念が存在する程、身近な猫にも人は恐怖を感じてしまうものですが話の舞台が現代に加え、また被害を受けた人間が単に近しい存在ではなく自主的に必死になって探し回る仲ではなかったり、係長もあまり親身になってくれない所にリアリティーがあってよかったです。
元悪役令嬢の私が、再び悪役令嬢として転生してしまった
如月沙織
あらすじ
私シフォン・ルルーレ・ラピスラズリは、冷静に自分は若くして死ぬという事を知った。私は前世、シフォンと同じ、所謂悪役令嬢だったのだ!前世は罪に問われ幽閉され、誰にも看取られる事なく病により20歳という短い人生を終えてしまった。あんな悲しく虚しい想いは二度としたくない!
けれど、私は元悪役令嬢。私のする行いは全てシフォンと同じ事であり、結局小説と同じように発狂しながら若い命を散らしてしまうのかしら?いえ、私には強い味方がいるじゃない!そうシフォンが出てきた小説のヒロイン、リリーなどを手本とし前世の私とシフォンを反面教師とし何が正しく、何が間違いなのか理解する必要がある。私、悪役令嬢をやめますわ!
コメント
最近一つのジャンルとして定着した悪役令嬢物の小説に思えますが、よくある漫画やゲームをやっていた一般人が悪役令嬢に転生するという流れとは違い、この作品では悪役令嬢“だった”人間が断罪されて、前世読んでいた小説の【悪役令嬢】に転生してしまうと言うのがこの話の醍醐味で、また同じ過ちを繰り返さないようにする主人公の奮闘が面白く、そして登場するキャラもとても魅力的なのも推薦した理由です。
彼女の笑顔
八日郎
あらすじ
彼女の笑顔は、明るくて、変わらなくて。
優しくて、でも寂しそうで。
そして、大切なもの。
コメント
青春を懸命に駆け抜ける子供の善意も悪意も短編の中に余さず描いた素敵な作品だと思いました。
敢えて当事者本人である優美の視点でなく、彼女と関わる亜紀やあかりの視点で描くというのが、想像の余地を残しつつも題名に繋がる優美の笑顔を読者に印象付けていますね。
多感な年頃に年上の異性に惹かれる気持ちは多くの人にも覚えのあることでしょうし、女の子の無自覚な冷酷さに加え男子の無神経さもリアリティを伴っていて、読んでいるだけで胃が縮まりそうです。
無事に優美の笑顔が戻ったことは嬉しかったですし、この先亜紀とあかりと三人でも一緒に遊ぶことができたらいいのにと妄想が膨らみました。
今後の活動を応援しております。
没落貴族の成り上がり英雄譚~名誉のため戦地で頑張りましたが味方の裏切りで捕虜にされ、国に戻ってみれば今度は従兄弟に財産を奪われた挙句に婚約者からは婚約破棄されてしまい、貴族として没落させられました。~
没落貴族の成り上がり英雄譚~名誉のため戦地で頑張りましたが味方の裏切りで捕虜にされ、国に戻ってみれば今度は従兄弟に財産を奪われた挙句に婚約者からは婚約破棄されてしまい、貴族として没落させられました。~
あらすじ
<これは嵌まる……時代に翻弄された男女の恋愛物語>
互いの領土拡大と鉱物資源をめぐり、国家を東と西とで二分して勃発した東西戦争。
貴族の名家であるシュヴァルツ家の長男デュラン・シュヴァルツは己の名誉と家名のため、その戦争へ参加することになった。
しかし運が悪いことにデュランは戦場で味方からの銃弾を胸に受けてしまい奇跡的にも生き残るのだが、今度はそのまま敵側である東の捕虜として捕まり、西側では彼のことは死んだものと扱われてしまっていた。
コメント
貴族の長男でありながら、国のために戦地に赴いた青年デュラン。敵国の捕虜にされ、終戦後帰国したときには、すでに死んだ人として扱われていた。
父はすでに亡く、家や財産はすべて叔父のもの。婚約者は従兄弟に奪われ何も残っていなかった。
それでもデュランは絶望することなく、前を向いて進んでいく。丁寧に描かれた心理描写や世界に引き込まれます。
あんずの輝き~夢の国からファンタジー~
磯部勝彦
あらすじ
舞台は東京湾上の人工島に建設された日本最大のテーマパークです。
夢も希望も抱けずに姑息に社会を生き抜いて六十歳の定年を迎えた男が、一生に一度だけ輝いてみたいと願い、キャストに応募し採用された。
翻弄されながらも純愛と欲望に目覚めていくのだが、最後に大事件が……。
コメント
三流を自称する殿岡の人柄は、話す前から敵愾心を抱いたかと思えば、いざ話してみると単純にも好意を抱いたりその反対であったりと、お世辞にもいいとはいえないものですが、不思議と憎めず逆に親しみを覚えて、気付けば感情移入をしていました。
それだけに最後に桃子が死んでしまった大地震は本人と同様、殿岡に恋心を抱いているとは思っていなかったものの少なからずショックでしたね。
テーマパークのキャストと聞きイメージする花形ではなく、パーキングエリアに焦点を当てるという発想が斬新でしたし、自然は見られなくとも、移ろいゆく季節や時間の様子を鮮明に描いた筆致が見事だったと思います。
寧々(ねぇね)と豊川稲荷のあやかし事情
もふもふ大好き
あらすじ
主人公、玉藻寧々(たまもねね)は長年勤めていた和服店を首になってしまった。そんな最中、彼女はネットで社員募集の記事を拾う。
頼りに訪れたのは日本三大稲荷とも言われている内の一つ、愛知県にある豊川稲荷だった。
しかしあろうことか【昼間は人間、夜はお菊人形】の姿になるという呪いをかけられてしまう。この呪いを解くためには恋をする必要があると言われ……
豊川稲荷に住まう白狐たちと、伏見稲荷の狐たち。彼ら狐(あやかし)事情に巻き込まれた寧々は呪いを解くため、和物売り店【ココロ堂】で働くのだが……
日本の和を売る小物店と、そこに訪れる縁ありしあやかしたち。彼らの心を溶かし、共に触れていく。それは寧々の心すらも動かしていった。
踏み出す心をテーマにした、ハートフルで切ないご当地あやかし物語。
コメント
豊川稲荷という狐の寺の物語は、恋にグルメにと大忙しです。
その土地ならではの雰囲気も出ていて、そこに旅行したくなるような描写が魅力でした。
登場人物は個性的でありながらも、メリハリの効いた楽しい物語です。
是非いろんな方に知ってほしいと思いました。
ここに行ってみたいです。
血流と白帯
山崎山
あらすじ
ある日、「私」は行きつけの本屋で、何もかもが真っ白な本を見つける。
タイトルも、作者名も、バーコードも、何もかもが存在していない。
しかし「私」は、何かに惹きつけられるようにその本を買ってしまう。
過去に置いてきてしまった心と夢。
諦観にまみれた「私」には、誰もが眩しく映る。
それでも――いや、だからこそ「私」は本を手に取る。
失ったものを探すために――
コメント
『私』が父を通して小説に抱いた熱量とその心理を、読者の中にも似たような覚えがある人もいるのではと思わせる程精緻に描写した凄く素敵な作品だったと思います。
現実と理想のギャップは父が小説家で尊敬し追いかけるというところに説得力がありますし単純に名字が同じだから惹かれている側面もあるかと思いきや、浅田の何気ない一言を受けてから答えが明かされる展開には、なるほどと唸りました。
浅田は浅田で悪気はなかったはずなので、根気強く話しかけてくれたところも含めて、腹を割って話せる関係になってほしいと願わずにはいられなかったです。
アインの伝説 ~気づいた時にはもう遅い? 転生したら滅んだ村の生き残りで、勇者の幼なじみなのになかなか名前を思い出してもらえないという極めつけの脇役だったんだけどさ、どうしたらいいと思う?~
相生蒼尉
あらすじ
前世の記憶をもって生まれたと思ったら異世界だった? アインは前世の記憶で内政チートを目指そうと考えて幼年期から活動するが、そこは実は前世で慣れ親しんだゲーム「レオン・ド・バラッドの伝説」の世界だった。それはVRゲームの大ヒットRPGで、アニメ化、映画化など、メディアミックスを展開して世間を席巻したコンテンツだった。ここがゲームの世界だと気づいたアインはプレーヤーとして行動し始める……。
コメント
よくある設定でありながら読んでいく内に引き込まれる作者の独特の世界観がたまりません。
伏線回収もしっかりしていて、最後はあ〜あれね!ああ、それか!と発見と納得でスッキリ(笑)
よくある設定でも、よくある内容ではない所がこの作品の面白さかと…好みは別れるかもしれませんがオススメですよ♡
白桜染紅
森陰 五十鈴
あらすじ
桜が盛る夜、楼閣の茶屋で酒を飲んでいた妖祓いの燈架は、興が乗じて相席していた少年に菓子を奢った。
そのことを切っ掛けに、少年――颯季と奇妙な縁で結ばれる。
彼が主とあおぐ麗人、都で起こる神隠し、そして颯季を狙う妖の影――。
少年を取り巻く事情が明らかになったとき、燈架は悲しく残酷な運命を目の当たりにする。
コメント
桜のめくるめく描写のおかげで、物語世界へと強くひきつけられた次第です。巧みな筆致と共に、洋燈やギヤマン、主菓子であったりと、天覧堂での様々なアイテムが古き世の雰囲気を盛りあげていました。
主人公が少年と交わす会話一つとっても、艶が感じられます。嘘か本当かわからない、妖怪が人を狙う理由については、強いフックになっていました。それらが最後の一瞬まで途切れることなく、続いています。
後々に意味がわかる、少年が桜の花びらの色について語る場面が印象深いです。
浸るほどに楽しませて頂きました。
ルーリアと竜呪と蜂蜜 ~隠し森でほのぼの暮らしていたけど、最凶の邪竜に呪われていたようです~
珀尾
あらすじ
万能回復薬とも呼べる、高価な『魔虫の蜂蜜』。ハーフエルフの少女・ルーリアは、その蜂蜜屋の看板娘だった。
幼い頃に邪竜の呪いを受け、成長できずにいるルーリアは、ずっと少女の姿のまま。
生まれてから1度も外の世界を見ることなく、森の中で父親とひっそり隠れて暮らしていた。
そんなある日、ルーリアの父親がケガを負って道に迷っていた人族の商人たちを家に連れ帰ってくる。
『商人たちには出来るだけ近付かないように』と言われていたルーリアだったが、偶然、その内の1人の秘密を見てしまうことに……。助けた少年は、人族ではなかったのだ。
その少年は、天使のような美しい姿をしていた。背中に大きな翼がある。この時の出会いが、後の2人の運命を大きく変えていくことになるのだが、その時はまだ、互いの名前を知ることもなかった。
ルーリアは少しずつ世の中のことを知り、やがて2人はまた出逢い、そして世界の大きな流れへと巻き込まれていく。
いずれ必ず魔王の元へと導かれる運命のルーリアは……。
コメント
タイトルから、ほのぼの系のスローライフものかと思いきや、思いっきりの王道ファンタジーで、良い意味で裏切られた作品。
主人公のハーフエルフの少女は、竜の呪いにより他者と時間の流れが違う。簡単に言えば周りは大人になっていくのに、自分だけがいつまでも子供扱いのまま、みたいな。
さらに、本当なら姫と呼ばれるはずだった出生の主人公は、それを知らされずに農家のような暮らしをして育つ。
それは主人公の生命を守るために、あえて両親がそうしたからなのだが、そんな環境においても少女は健気に純粋な気持ちを持ち続ける。
人や動物の生命について考えたり、自分に何が出来るのか悩んだり。かなりシビアめな話もあり、主人公が成長していく様子は読んでいて応援したくなる。
しっかりとした世界観があるから読み応えがあり、伏線や周りにいる人たちの話も複雑に絡んでくるから、読者側にも記憶力や知識欲が少しだけ必要となってくる。だが、それがいい。
すぐに先が読めてしまう、どこにでもありそうな話に飽きた人には、ぜひおすすめしたい。
誰かが誰かに恋をする
さとうささ
あらすじ
私の趣味は人間観察だ。もっと言えば、人間関係観察だ。
勝手に作った相関図ノートを、クラスの人気者に拾われたのが運の尽き。
なぜか付き合うふりをすることになりました。
コメント
主人公の揺れ動く心情がつぶさに描かれていました。手帳の相関図がばれたところから急激に変化していく人間関係が面白かったです。
観察していたつもりが、実は間違っていた関係性など、見所がたくさんありました。
脅されて高野とつき合うふりをするようになってからの戸惑いもいいですね。やがて覚える甘い気持ち。巧みな演出のおかげで臨場感が漂っています。
高野の秘密を知るシーンでは驚かされました。その勢いは最後まで続いていて、盛りあがったまま〆られています。
よい心持ちで読み終えることができました。
氷牢の玉座
ぬい
あらすじ
ブロンディア王国・王都最大の冒険者クラン【黎明の剣】に所属する金髪金眼のベテラン冒険者アルメスは、幼少期を過ごした田舎の村から二年前にブロンディアにやってきた剣士ラッシュ、魔術師フレイ、軽戦士ランの三人とパーティを組んでダンジョン攻略をしていた。
そんなある日、C級ダンジョン攻略中、アルメスは三人からパーティを追放されてしまう。
駆け出しの頃から三人を見守ってきたアルメスは落胆するも、仕方がないとパーティから脱退するついでにクランからも脱退してしまう。
団長ら幹部不在のクランですんなり脱退手続きが済まされてしまい、正式に【黎明の剣】を抜けてしまったアルメス。
だが、ラッシュたち三人は知らなかった。
アルメスはただの後方腕組み師匠面ニヤけ野郎ではなく、ソロで数々のダンジョンを踏破している世界最強の一角、S級冒険者であるということを。
野に放たれたS級冒険者アルメスは、同じくパーティから追放された新米回復術師のヨルハと出会う。
雪狐族という希少な獣人のヨルハは故郷を焼かれ、仲間に裏切られ利用されるところをアルメスに救われ、アルメスのような強い冒険者になることを誓う。
いつか、雪狐族たちが安心して暮らせる国を作りたいと夢を語ったヨルハに感銘を受けたアルメスはヨルハの師匠として再起する。
最強の師匠と最弱の弟子が夢を叶えるために強さを求めてダンジョンへ挑む。
そんなお話。
コメント
異世界のブロンディア王国というダンジョンで栄える国を舞台に、パーティを追放された最強の冒険者アルメスと、同じく仲間に裏切られ利用されて追放された最弱の冒険者の雪狐族という獣人の少女ヨルハが出会い、ひとつの夢を描いて師弟としてともに暮らし始めます。序盤は追放テンプレ要素を踏襲しつつ、ダンジョンアタックではゲームの世界を現実にしたような生々しく厳しい環境で必死にヨルハは大苦戦しながら必死に努力するスポ根チックな要素もあり、また師弟を超えてアルメスを慕うヨルハの恋心と師匠として接するアルメスのすれ違いのようなラブコメ要素。そんなほのぼのありなよくあるダンジョンものと思いきや、二章、三章と新たに登場した人物により物語はただの追放ざまあテンプレの枠を超えていきます。まだ連載途中の作品ですが、ブロンディア王国の王都に集いつつある強者たちやアルメスやヨルハ、元仲間たちの行方がどうなっていくのか、とても気になる作品です。
悪役令嬢に転生したおっさん
テイク
あらすじ
四十歳、妻子持ち社畜企業戦士であったおっさんは過労で死んで気が付くと貴族の娘になっていた。実はとある乙女ゲームの悪役令嬢なのだが、そんなゲームをやるわけもないおっさんなのでまったく気が付かない。
とりあえず、死ぬまで働いたおっさんはもう働きたくないのでぐうたら過ごすことを決めた。
そんなある日、彼は運命と再会する。
――これは、悪役令嬢に転生してしまったおっさんの物語。
コメント
直球な題名に惹かれて読み始めたら一気に最後まで読んでしまったほど夢中になっていました。
主人公がおっさんで、乙女ゲームを知らないということなのでよくある展開を汲むだけかと思いきや娘夫婦が登場すると冒頭の婚約破棄シーンが違った意味を持ち、なぜあの流れになるのかと今までと違うわくわく感も膨らみましたね。
ナタリアの容姿で親馬鹿なシュールさも前世の心残りがあったことからほんのり切なさがあり、一家の幸せを応援したくなります。
最早無双の言葉に収まらないスペックながら好意的に見られたのも、名前のあるキャラクター全員が生き生きとしていたからだと思いました。
くま好き令嬢は理想のくま騎士を見つけたので食べられたい
楠木結衣
あらすじ
主人公のアリーシアは、美少女な見た目と裏腹にお転婆令嬢としてのびのび育てられていた。
ある日、宝物のくまのぬいぐるみそっくりなガイフレートと出逢い物語は動きはじめる。
片想いするアリーシアに立ちはだかる年の差問題やアリーシアを溺愛する兄と父、それに真実の愛を語る王太子とヒロインが次々とあらわれて……。
これは、くま好き令嬢アリーシアとくま騎士ガイフレートのあまい恋のおはなしです。
コメント
ジャンル:異世界恋愛、可愛くてとっても甘い恋のお話です。
侯爵家の娘アリーシアの父と兄は、アリーシアがお母さんのお腹の中にいるときからアリーシアにめろめろです。まず、父と兄は脇役ですが、二人の溺愛っぷりが面白いです。
アリーシアはこげ茶色のくまの縫いぐるみといつでも一緒です。縫いぐるみそっくりなくまが登場する絵本をいたく気に入って、同じ絵本に出てくるくまと仲良しのうさぎは何だかアリーシアみたいに思えて。
ある日、くま似の兄の友人ガイフレートに出会います。
大好きな絵本のくまとうさぎのように、ガイとアリーが仲良く幸せになる童話みたいに愛らしく、後半には大人っぽさもいっぱい詰まった読めば満足度大のとっても素敵な恋のお話。
見所は作品途中でアリーが「てへぺろ」を練習する場面、とっても可愛くて、また笑えます。
そして、後半の溺愛甘々お砂糖いっぱいな場面、きゅんきゅんします!
人形神 -神聖大日本国憲法第零章第零条-
龍乃光輝
あらすじ
不思議にも世界は神によって創造されたと数十億人もの人々が信じて疑わないのに、一国を除いて法的な記述をする国は存在しない。
科学より神話を信じる人々がいるのに、国家は神の存在を認めない。
しかしたった一国だけは、神の存在を認め、神としての法を憲法に記載している国がある。
極東に位置する島国、日本。
正式名:神聖大日本国。
長年愛用し続けた物に魂が宿り、世界で唯一憲法に神の記載がある日本。
実体として姿を現す神々には不思議な力を持ち、その力は経済に至るまで浸透し、人と神は互いの腹を見せ合い共存の生活を続けている。
そんな国に、また一柱の神が顕現した。
コメント
誰もが羨むほどに万能な神通力を有しながらもその反面で普通に生きることが難しいという実情も描きそれに等身大の少年が必死に立ち向かう展開にワクワクハラハラとした、とても素敵なお話でした。
月筆乃命はあくまで貫之が大事で貫之もまた、その強大な力に溺れるでもなく正義感より神隠しに狙われ続ける厄介さと目の前の人たちを見捨てたら子や孫ができたとき何も言えないという思いで動いていたのが印象的です。
古川も最初は異様な当たりの強さに貫之に感情移入し読んでいたのであまり好感を持てませんでしたがホテルの件を経た後、キョウも含め関係が変わるか気になり続きも楽しみですね。
調香師は時を売る
安井優
あらすじ
人々を癒す『香り』を作るマリアのもとには、今日も様々な客人が訪れる。
そんな人と人との繋がりを通して、調香師として、そして一人の人間としてマリアは成長していく。
様々な香りを作り出すマリアの奮闘の日々を描く、癒しとドキドキのお仕事小説です。
コメント
文で、人間の五感の一つである香り、匂いについて表現しようと尽力する素晴らしい作者様だからです。
読んでいるだけで、お花だったり、香水だったり、お香だったりの匂いを体感することが出来ます!
それだけでなく、感動する物語も多く、人々の目を引き付ける作品だと思うからです。
拝啓、梟のあなた
奥山柚惟
あらすじ
とある魔法大国の暗部に身を置く少女〈梟(オウル)〉。
死体から生前の記憶を読み取る魔法“ネクロ・メモリア”を用い、彼女は諜報員として暗躍していた。
手紙の送り主イザク、彼にまつわる淡い思い出、少女の持つ“おまじない”、同僚の〈鴉(クロウ)〉──次第に動乱へと向かう国の影で、諜報員たちはある企てを目論む。
一見無関係な要素が寄り集まり、そしてフクロウ少女の手によって導かれる結末とは。
コメント
キャラ描写が秀逸でした。状況がすんなりとわかり、それでいて情緒も伝わってきます。またネクロ・メモリアという魔法を軸にして、物語全体がうまく構成されていました。
また、検死官のやり取りしたオウルの印象と、その直後のクロウとの食事談義の際のギャップがとてもいいですね。綺麗に内容が繋がっているだけでなく、彼女からまったく違った印象を受けました。
オウルの文通相手に対して、クロウが一言申すシーンが印象に残っています。うまい伏線の張り方でした。
終盤で盛りあがり、綺麗に〆られていてよい心持ちで読み終えた次第です。
転生令嬢の優雅なティータイム
羊
あらすじ
ベーヴェルン王国の公爵家に生まれた
シルヴィア・フォン・ヴェルトハイムは、
7歳の時、エリオット王子と出会う事で前世を思い出す。
『ベーヴェルン王立学園〜光の聖女と7人の騎士〜』の悪役令嬢として転生したシルヴィアは、執事のリアムと共に、バッドエンドを回避しつつ、全力で野次馬を楽しもうとするが、
野次馬するどころか物語の中心に何故かいる。
「あら?おかしいですわね」
コメント
流行りの悪役令嬢が題材ですが、主人公がギャグよりでテンポよく読めます。
しかし、ところどころ今後の展開を左右するような伏線もはられているので、非常に続きが気になります。
ぜひ漫画化して、絵でも読めたら良いなと思います。
ちなみに、出番は少ないですが、エリザベスのキャラが推しです。
You love him.
ずび
あらすじ
『堂島君にラブレターの代筆を頼むと、必ず恋が叶う』。そんな甘酸っぱくてファンシーな噂がまことしやかに囁かれる、緑森高校。二年の堂島駿介は、そんな乙女チックな噂話を聞きつけてやってくる恋する乙女(時々、男)達の相談に乗り、そしてラブレターの代筆を承っていた。だが、乙女達は知らない。彼にラブレターを書いてもらうと言うことにいかなる意味があるのかを。そして、それを後悔する事さえ許されないという事を。乙女達の純情を弄ぶ堂島駿介の目的とは、一体何なのか。
どんな恋も必ず叶えてしまう呪われたラブレターがもたらす数々の愛憎劇に彩られた、堂島駿介の青春物語です。
コメント
堂島を客観的に見ると、作中で言われている通り自己中心的で好感を持てない人柄ですが、ただもし自分が彼の立場だったらと考えると同じ行動を取らないとは言い切れないところもあって、その人間くささが彼の行く末を見守りたくなるような魅力に繋がっていたと思います。
一話一話が果たして正解はあったのだろうかと考えさせられる物語になっていて、堂島の過去だけでなく東との結末にも続いていく綺麗な構成でした。
堂島が東に惹かれていたのは確かですが自分を呪ったことといつかは今までの報いを受けるだろうあとがきがありハッピーエンドで終わらないのも個人的には好みです。
いつか輝く星になれ
あんじょうなほみ
あらすじ
冴島春奈は、陸上部に所属する足が速くてカワイイ中学3年生。ある日出場した5,000m走の記録会で日本新記録をマークしてしまったから周囲は大騒ぎ!
日本記録保持者となった春奈は、突如世間の注目を浴びることになる。
中学を卒業し、春奈は駅伝の名門・秋田学院の門をたたく。
陸上部へ入部した春奈は、ルームメイトの牧野怜名、ライバルでありバディでもある高島秋穂たち仲間とともに、最大の目標「全国女子高校駅伝」での優勝を目指し練習に励む。
女の子は、時に笑い、時に涙し強くなる――「駅伝」というスポーツを通じてひとりの少女の成長と活躍を描く長編アスリート小説です。
コメント
小説家になろうでは少ない陸上競技を題材にした作品であり、出てくるキャラクターたちに魅力があるからです。
また、しっかりと駅伝や学校についても調べられており、作品への作者の拘りが感じられるからです。
境界線はファインダーの向こう
染島ユースケ
あらすじ
ファインダー越しに見つけた、
並行世界(パラレルワールド)との境界線。
決して触れない世界の向こう側に、
あなたはいました。
恋とカメラとパラレルワールドの物語、開幕。
コメント
日常的な学校生活の最中に、突如混じり込む非日常がキャッチーでした。緩急のついた序盤になっています。親しくない主人公と大山の関係性をうまく使い、そこに伏線を張ったのは見事です。クライマックスで開花する、丁寧で綺麗な構成になっていました。
この物語に相応しいのは等身大の学生の姿で、それが填まっています。特殊な身の上と合わさって、驚きに繋がっていました。主人公が真実に気づいたときのシーンが、強く印象に残っています。素晴らしい〆で、よい心持ちで読み終えることができました。
今後の活動を応援しております。
よいこ魔王さまは平穏に生きたい。〜幼女×魔王×ごはん×生存戦略スローライフ!〜
海野イカ
あらすじ
史上最も嫌われたと名高い第67魔王デスタリオラは、勇者との戦いに敗れた後、気づけば辺境伯の娘として生まれ直していた。おかしな役割を押し付けられたものの『魔王』よりは気楽そうだと軽く承諾。おいしいものをいっぱい食べて、ヒトとしての暮らしを平穏にエンジョイしようと固く決意。
……したはずが、襲撃やら逃亡やら戦闘やら何かと忙しく過ごす、元魔王お嬢様のおはなし。
コメント
勇者に倒された魔王様が人間の女の子に転生して、前世では不要だった食に目覚めるお話。
1.トップ絵や挿絵がとってもかわいい。書籍化したら『文:作者様 イラスト:作者様』でぜひ読みたい。
2.キャラクターが魅力的。杖→ぬいぐるみにクラスチェンジしたアルトの動きがめっさかわいい。侍従長(かっこいい)も侍女(ドジ...子は外れているはず)もキンケード(かっこいい)も大好き。
3.文章がとても丁寧。主人公の葛藤も食レポも丁寧に書かれていて、魔法陣も映像で見てみたいと思うくらいきれい。戦闘シーンも迫力。
4.更新スピードが週二、三と速い。でも毎回の更新がすごく待ち遠しい。
『魔王』から『悪徳令嬢』に役目を変えた少女が大切な人たちと平穏な生活を守るため頑張るお話。
ぜひ一度トップ絵を見てください!
山の女神は不本意ながら村の少女を嫁にする
長埜 恵
あらすじ
「アタシは男の生贄を要求したはずだが」
「私も男神様に嫁ぐものと聞いておりましたが」
ひょんなことから夫婦(?)となることになった山の女神と村の少女ツツジ。
女はいらんと村にツツジを返そうとした女神だが、ツツジは浮かぬ顔で……。
まだ山に神がいた頃に、いつかどこかであった婚姻譚。
コメント
女神とツツジのやり取りが楽しめました。美味しそうに食べるツツジが、とても可愛らしかったです。また世の酸いも甘いもかみ分けている女神もいいですね。二人とも個性があって、キャラが立っていました。
明るい雰囲気に満ちていましたが、それだけに留まらない過去が物語に深みを与えていました。村を捨てたツツジが山奥で村をという展開は、ある種の逆転劇です。痛快で、すばらしい盛りあがりと構成になっていました。
田吾作のエピソードもいいですね。よい心持ちで読み終えることができました。
流浪園殺人事件
若庭葉
あらすじ
謎の言葉を残し、瀬戸藍児は大学を去った。それから半年経ったクリスマス・イヴ。緋村奈生と若庭葉の二人は、ある人物と謁見すべく、絶海の孤島に建つ館──“流浪園”を訪れる。図らずも、亡き当主の遺言を公開する場に立ち会うこととなった彼らは、そこで奇妙なお告げを聞かされ……。直後、その内容をなぞるかの如く、「幻獣の骸」が出現した!
剥製、標本、美術品、古武器、錬金術、託宣、迷宮──博物学的趣味の横溢する「珍奇の園」で、想像を絶する悪意が胎動する。見立て殺人の謎に挑む、シリーズ第二長編。
コメント
なろうのミステリー作品を読み漁ってるのですが、この作品のクオリティは段ちがいでした。
僕は、仮にこの作品が今年のこのミスの1位であっても、少しも驚きません。
それくらいに、謎の魅力も、トリックの練り具合も、動機の斬新さもヤバいです。語彙力を失うレベルです。プロの作品を超えてます。
首が切られ、首のあるはずの部分に牛頭の剥製を縫い付けられた男性の死体、それと立て続けに発見される、牛の身体に人間の首を縫い付けられた女性の死体。
作中にも「狂気のパズル」という表現が用いられていますが、ここまで緻密で、かつ完成されたパズルはそうそう見られるものではありません。震えました。
先輩と僕。
戸嶋トモ
あらすじ
放課後、高校1年生の「僕」はゆっくり落ち着いて過ごせる場所を探していた。
やっと見つけた立入禁止のそこには、先客の「先輩」がいた。
その日から、僕と先輩は放課後そこで読書をしたり、他愛もない話をしたり。
まるでラブコメのような展開だが、これはあくまでも僕と先輩の日常の物語。
コメント
さりげない伏線の張り方が、物語を後半をより盛りあげていました。身の回りの品物や状況をうまく使い、相当に練られていた印象です。
偶然が取り持った主人公と先輩の自然なやり取りがいいですね。うち解けて話すそれぞれの身の上であったりと、とてもいい感じでした。心地よい雰囲気が漂っています。
明かされた先輩の秘密は驚きでした。淡々とした伝え方な分、より先輩の心情が伝わってきました。先輩を心配する主人公の行動に、親しみを覚えた次第です。学校を舞台にしたからこその情景描写が、心に染み入りました。面白かったです。
デブオタと追慕という名の歌姫
ニセ@梶原康弘
あらすじ
いじめられっ子少女を伝説の歌姫にしたのは、名もないアイドルオタだった……
聖地巡礼中の英国で日本のアイドルオタ「デブオタ」は偶然イジメの場面に遭遇する。その様子は日本で底辺と虐げられた自分の境遇と重なり、彼は思わず喧嘩を買って出た。
悪罵を罵倒で叩き返した彼は自分を音楽プロデューサーと偽り、いじめられていた少女エメルをトップスターにしてやる!と、いじめていた歌手志望の少女リアンゼルへ宣戦布告する。
理不尽な世の中に反抗するようにデブオタは怪しげなプロデュースへ全力を注いだ。そんな彼の哀しい想いを知ったエメルは修練を重ね成長する。そして次第に彼に惹かれていった。
一方、リアンゼルも憎悪を糧に己を磨き、二人は遂に歌姫の頂点を決める英国最大のオーディションのステージ上で対峙する。
だが、そこで思いもよらぬ出来事が彼等を待っていた。
汗と涙と挫折と、そして栄光と衝撃と別離と……歌姫への階段を駆け上がった少女がステージで最後に見たものは……
コメント
搾取されバカにされ…それでも心優しく漢気あふれるデブのアイドルオタが、哀しい境遇のいじめられっ子をアイドルプロデュースするという異色小説。
勿論、デブオタはただのアイドルオタクであり、プロデュース経験は現実世界では決してない。だが、怪しげな特訓でもそこに込められた思いと努力は真剣そのもの。気弱だった少女エメルは心身共に成長し、やがて信じられないような奇跡を成し遂げる。
この物語のテーマは「弱者の反撃」だが、なろう小説にありがちな、スキルや覚醒でやり返して刹那的に「ざまぁ」と痛快な思いに浸る薄っぺらいものではない。
その根底には虐げられた社会的な弱者の想いや悲しみがあり骨太のテーマとなっている。努力が実を結び、光が当たり、底辺から栄光へ、人々に祝福される大団円へと繋がってゆく。
ライバルの少女も、なろう小説でいうところの噛ませ犬や引き立て役の悪役ではなく、読者の共感を得る存在「もう一人のヒロイン」として見事に大成する。
この物語最大の魅力は少女達がステージで歌う姿の描写力である。まるで魔法をかけられたかのように少女達の姿が目に浮かび、ミュージカルを見に来ているかのような錯覚を覚えてしまった。また、文字から滲み出る魂の込められた地の文やウィットに富んだ会話文は秀逸過ぎて、舌を巻いてしまう。
このシンデレラ物語は、もし書籍化したら本屋に並んで一ヶ月も経たないうちにブックオフで叩き売られるような流行ものではない。いつ読まれても色褪せない、買った人の本棚にずっと置かれて読み返される作品だと思う。
この感動を是非、たくさんの人に知って貰いたい。本当にWEB小説界に眠る、受賞に値する名作です。
死神の恩返し~足をくじいた私は、なぜかイケメンの死神と同居することになりました~
彩瀬あいり
あらすじ
足をくじいて引きこもっている中西由衣が暮らすマンションを訪ねてきた、黒ずくめの男。
玄関チャイムとともに現れた、シュウと名乗るイケメンは、自分は君に助けられた死神なのだ、と告げる。
一週間ほど前、生け垣に引っかかり、首が締まりそうになっているところを救った黒猫の正体が彼らしい。
「君は命の恩人だ。だから、恩返しに来た」
「――はい?」
「今日からここに住んで、俺が君の生活をサポートする」
なしくずしに開始された死神との同居生活に、彼氏いない歴=年齢の由衣は、対処できるのか。
コメント
主人公が死神を信じるまでの流れ、うまい掴みになっています。またビジネスライクな死神の仕事内容が、程よいコメディな雰囲気を醸しだしていました。おかげで楽しい日常生活の様々な引き立っています。
丁寧な構成が心がけられていて、全体としてまとまっていました。死神たちが生と死について語るエピソードは特によかったです。
伏線の張り方がうまく、終盤で語られる真実の畳みかけは見事でした。主人公と死神の心情が丁寧に描けており、強く心を揺さぶられた次第です。よい心持ちで読み終えました。
異世界でも全力で推し活!!茨道上等!!ヘタレお兄様の幸せは私が守ります!
柴犬丸
あらすじ
『推しの幸せが私の幸せ!!』『推しのためならなんでもする!』
主人公は乙女ゲームのサブキャラの妹に転生した『オタクの伯爵令嬢ロゼッタ』
6人×2回きっちり振られるストーリーが用意されたお兄様の運命を変えるために今日も孤軍奮闘!
兄の本命はなんとゲーム本編のヒロイン!!
並みいるイケメンどもを蹴散らして兄はヒロインとカップルになれるのか!?
断罪・没落・婚約破棄・ざまぁも意地悪令嬢も登場しない、明るめのハッピーファンタジー!
『100%ヒロインに振られる』お兄様のメインルートを回避するのが人生の目標!
ちょっとだけチートな能力をフルに使って暗躍します!(?)
茨道上等! 道が無ければ拓いて歩く!
オタクの生き様見せてあげるよ!!!
コメント
登場する人物に嫌な人が一人もいないのにちゃんとストーリーが面白い!ハッピーでストレスフリーな作品。ざまぁ無し!
よくある転生乙女ゲームネタなのに、全然予想通りにならなくてストーリー展開が読めない。オタク要素満載なのでオタクの読者は楽しめると思う。
牛日記 ~牛ときどきネコ、ところによりネズミ。~
ちはや れいめい
あらすじ
〜元酪農職の作者が書く酪農小説〜
アラサー女子ササキは、前職を辞め心機一転。
酪農職についた。
スローライフでささくれた心も癒やされる。接客業なんてもうやらねぇ! と思っていたけどどっこい。
現実はかくも厳しい。
早起き必須で、力仕事で、汚れ仕事で、牛には蹴られる。酪農はちっともスローじゃない。
発達障害もちで記憶力と注意力が足りないから、トラブルの連続。後悔してももう遅い。あとに引けないから根性で牛たちに食らいついていく。
コメント
酪農小説とのことで、あらすじから興味津々で読ませて頂きました。
話タイトルから何となく読み取れるササキさんの大変さ、そしてテンポの良い展開。作者さんが酪農を経験されているというのもすごいなと思いましたが、写真や見取り図などもあり『なるほど、こちらの牛舎はこうなっているのか』と理解を深めるきっかけとなりました。
また、生き物と向き合う大切さなどが、スピードを求められる部分にあるのかなと感じたりもしました。
ササキさんはこれからも色々と大変そうです。めげずに頑張れ、と思わず応援したくなります。続きも楽しみです。
冬野つぐみのオモイカタ
とは
あらすじ
人が黒い水を残して消えてしまう事件が世間を騒がせる中、行方不明になってしまった親友沙十美。
これは人ならざる力を持った犯人を追いつめるべく、人より優れた観察力を持つ女子大生、冬野つぐみが異能を持った協力者と共に親友を救うために立ち向かう物語。
コメント
ローファンタジーでホラー&推理モノなのですが、主人公が無双する話ではないものの洞察力という、ただそれだけの能力で身の回りで起きている事件の真相に迫る様が見ていて面白く、また周囲の人物も魅力と「発動」という特殊能力によって個性が有り、彼らとの繋がりや関わりによって主人公が少しずつ変わっていくのが楽しみな作品です。続編も連載中なので是非オススメしたいです。