クラウドゲームス株式会社が運営する『第六回ネット小説大賞』にご応募・ご参加いただきまして、まことにありがとうございました。
今回のコンテストでは『10,156』作品という、過去最大の作品にご応募をいただき、コンテストの盛り上がりを通してコミカライズやアニメ化する作品が多数輩出されている、『小説家になろう』といった媒体の盛り上がりを感じることができました。
ヒューマンドラマや恋愛ジャンルにおいて書籍化したいと思わせる作品が多数見られるなど、受賞作も32作品と、昨年以上の作品数を書籍として世の中に送りだすことができ、皆様からいただいた応援コメントも500程度いただくなど、多くの参加者の方と共に成長できた回となりました。
5回目の開催ということで、「小説家になろう」でもすっかり定着した感があり、毎回多くの意欲的な作品にご応募いただいております。今回は、国内最大級の応募作となる7165作品のご応募をいただきました。
Web掲載から書籍化をした作品が身近にみられるようになった昨今、作品も『お手本』を参考にした形か、回を増すごとに品質が向上していると感じられました。
第六回ネット小説大賞のグランプリは、宝島社様より刊行予定の『クロサキリク』先生のミステリー探偵小説である『帝都メルヒェン探偵録』となりました。
昨年の『妻を殺してもバレない確率』に続いて、2年連続で一般文芸作がグランプリを獲得することとなりました。
『帝都メルヒェン探偵録』は時代背景として1920年代、大正~昭和の時代をモチーフとした架空の日本を舞台としており、広義のファンタジー作品ではありますが、神保町や長崎町など、現実の地名も多数出ており、当時の文化情景が浮かんでくるほど徹底して統一されたモダンな文章、全体的に落ち着いたトーンながら謎を問いかけてくるストーリーと相まって、不思議なほど引き込まれる作品です。
キャラクター性としても。自堕落な青年と不思議な少年のバディ設定に心をがっちり掴まれました。また、グリム童話がモチーフとして登場するところも、耽美な雰囲気が好きな読者のツボを的確についており、今回のグランプリに選出されました。
「小説家になろう」から書籍化される作品の多くは異世界ファンタジーもので、一般的に「小説家になろう=異世界ファンタジー」という印象があるのも事実です。ただ、最近では異世界ファンタジー以外のジャンルの作品を読みたいと思う読者も増えてきており、そのような読み手のニーズに呼応するように、異世界ファンタジー以外のジャンルでの力作が増えてきたように思います。
一二三書房様より受賞した『隣の席の佐藤さん』、双葉社様より受賞した『僕は僕の書いた小説を知らない』等、作品と市場の盛り上がりに応える形で、一般文芸作品の受賞数もふえてまいりました。
『隣の席の佐藤さん』は、主人公の一人称視点で描かれる、不器用で、勉強も苦手で、地味で、美人でもないヒロインですが、青春時代特有の子供から大人に変わっていく大人への変化と、時間の経過とともに描かれる、不器用だからこそまっすぐな佐藤さんに、主人公の徐々に惹かれていく気持ちの変化が、恋愛模様につながっていき、気が付けば二人のことを応援していく形になっています。
『僕は僕の書いた小説を知らない』は、『記憶が1日しかもたない主人公が長編小説を書く』というコンテストに応募されている方なら、これだけでどういった小説か気になるような惹かれる題材を用いています。記憶が失われる中でも、周囲の力を借りながら諦めず、前向きに小説を書き続けるストーリーです。惹かれるギミックではありますが、ともすればあっという間に破たんしてしまいそうな題材を、喜友名トト先生の構成力で見事にまとめ上げている印象がありました。
一般文芸方面で、今回異色受賞作といえば『ニャーロック・ニャームズのニャー冒険。』も外せないでしょう。主人公が猫というだけで奇抜なのに、さらに『推理・探偵』『ハードボイルド』『ミステリー』という要素がふんだんに盛り込まれています。『ハードボイルド推理小説』と聞くと、ハードルが高く思えるかもしれませんが、これが最大のギミックである『主人公が猫』といったことで、読みながら笑顔が離れない、ライトなハードボイルド小説を実現しています。この作品が書店に並べられたとき、ミステリーファンがどのような反応を持ってくれるのか、今から楽しみでなりません。
異世界・ファンタジーの受賞作品では、ジャンルの変遷が見られました。
新紀元社様より期間中受賞をした『ファンタジーをほとんど知らない女子高生による異世界転移生活』が目を引きました。「愛読書はSFの女子高生がファンタジー世界にいったら」といった、題材で、ともすれば『ファンタジーだから』でさらりと受け入れてしまいそうなものを注視しながら、描写している文体が印象に残りました。主人公は地味に生活しようとするものの、気づけば目立つという『まきこまれ系』が、読んでいて楽しく映りました。
金賞受賞作である『おっさんたちの戦いはこれからだ!~勇者パーティーの初期メンバーだった商人は勇者を使い捨てた大国にブチギレました。』、人気のある「おっさんもの」ですが、長年生きて培った人脈や開発した技術を使って勇者を支援するなど、おっさん設定が主人公の魅力に上手く生かされていました。話の展開は王道といえる勧善懲悪ものですが組織などを動かして敵を追い詰めていくなど、『おっさん』ジャンルが好きな方に対して新しいテーマを提案しつつ、ツボをおさえた作品であったと思います。
TOブックス様から受賞した『拝啓、天国の姉さん…勇者になった姪が強すぎて──叔父さん…保護者とかそろそろ無理です。』など、昨年からその流れはありましたが、おっさんジャンルが流行りつつ、「ほのぼの」「まったり」などが目立っているなど、依然としてスローライフ傾向が強いようです。また、「ケモミミ」「獣人」「モフモフ」などのモフモフ系キーワードも多く見受けられ、異世界での亜人との交流を目的とした作品も多いと感じました。
応募作の傾向として、今の読者の好みやすでに書籍化されたヒット作をしっかりと研究している作品が多いように感じました。全体に粒ぞろいのコンテストだったのではないでしょうか。
特に一次・二次選考通過作の中からは、作者の個性を表現しつつ、今の読者に刺さるキーワードを上手に組み込んでいる作品に多く出会うことができました。
こうした、読者にいかに楽しんでもらえるかという視点はエンターテインメント作品にとって欠かせないものです。自身の感性・個性を作品に注ぎ込みながらも読者に楽しんでもらえる作品に仕上げていく、その姿勢を今後も持っていていただきたいと思います。
一方で、今回も応募作品の約半数はコンテスト開催期間中に連載が開始されたものでしたが、品質が徐々に向上しているということは、昔の作品を改稿せずそのまま応募しても、若干品質的に厳しくなる部分が徐々に出てまいりました。昔から連載されている作品も受賞しておりますが、応募の前に少しテコ入れをするだけで作品はぐっと魅力的になるということを覚えていきましょう。
一方で、上記受賞作など目を見張る作品が出ているものの、一番層の厚い「異世界転移・転生もの」小説の方が、例年に比べて魅力的なものが少なくなったことを複数の出版社様が感じられました。作品数が多く差別化が図りにくい部分もありますが、だからこそ本当に面白い発想や物語、心地よい文章は出版社の目に止まります。
また、『小説家になろう』といった投稿サイトが成熟していき、『人気作』もわかりやすくなり、誤解を恐れずに表現しますと、『人気作になる方法』もある程度わかってきた印象があります。それは悪いことではなく、読者のニーズを捉えようとする作者の方の努力の賜物であると考えておりますが、一方でそちらに終始してしまっては、著者の方の持っているポテンシャルを失ってしまうことにもつながりかねないと感じます。
金賞受賞作である『捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです』は、テーマとして王道を抑えながらも良い意味でなろうのテーマとは違う、現代文化を持ち込んで無双するのではなく、世界の中で主人公が懸命に生きていく様子が、従来のなろう小説と差別化ができており、捨て子やスラム街という恵まれない環境でたくましく生き抜く主人公の姿に好感を抱き、受賞の理由となりました。
受賞作品を選定するうえでその作品にしか出せない個性の部分は非常に重視されます。流行りのテンプレや設定などによって、同じような作品が増えていく傾向にありますが、その中でもどこかオリジナリティを感じる作品に注目しました。人気トレンドを押さえることも重要だと思いますが、読者が本当に読みたいと思える作品には、王道や流行を抑えつつも、あるいは抑えているからこそ、既存の概念にとらわれない、『その作品だけのセールスポイント』が必要であると考えます。
そういった意味で、受賞作の中ではツギクル様より刊行予定の、『田中タダシ(41)建国記 『中世ヨーロッパ風なんてキツすぎる!』が目を引きました。基本はコメディ路線を踏襲しながらも、ともすればご都合主義になってしまいそうな世界設定を魔法なし、科学技術なしといったハードモードの中で、人間らしさ、男らしさを感じられる作品でした。応援コメントの言葉を借りるのであれば『人生』を小説の中に持ち込んだ、戦記ものをとも異世界ファンタジーともつかない、新しい挑戦を作品の中で感じることができました。
このような、新しい目を見張るギミックについて、自身の『書きたいもの』から来るのか、考え抜いた末のギミックからくるのか、といったところは違いますが、コンテストとしては市場の壁を破っていただけるような作品の登場を願ってやみません。
もちろん、ふだんあまり読まれていないが『市場を打ち破る』作品にスポットライトをあてることもコンテストの意義のひとつであると感じておりますが、そういった中でタイトルの重要性を感じる回になりました。作品がお店に並ぶ品物ならば、タイトルは品物をより魅力的に見せるパッケージです。ただ「あんパン」と書かれた品札よりも、「大納言たっぷり! 焼き立てあんこパン」の方が美味しそうに感じます。今回も、タイトルで「面白そう!」と「ひとめぼれ読み」をすることが、選考過程で多々ありました。コンテストでは「読まれたら勝ち」という側面もあります。ぜひ、内容をより引き立たせるタイトル作りにも目を向けて頂けたらと思います。
締めとなりますが、今回受賞した34タイトル、34名の著者の方、まずは受賞おめでとうございます。既に期間中受賞作は発売されているものもありますが、商業的にはこれからが本番となります。受賞作はこの夏から順次発売になります。
運営チーム一同、当コンテストから出た作品、およびコンテストにエントリーされた方々の作品が、ひとりでも多くの方の目に留まり、その発信する文化に気づいていただけますよう、継続的にご協力させていただきます。
そして今回であれば99.7%の落選された方、書き続けることを忘れないようにしてください。
このコンテストをはじめてから6年が経過し、多くの才能と出会ってまいりましたが、今回グランプリをとられたクロサキリク先生も、第四回ネット小説大賞以来の受賞となりますが、書き続けることで、カムバックされたり、数年間書き続けた作品が受賞につながったりといったこともございます。
Webコンテストにおいて、スポットライトをあたるタイミングで、遅いことはありません。
小説という文化が今後も拡大することを、コンテストとしては継続して応援してまいります。
今回は、ご参加まことにありがとうございました。引き続き何卒よろしくお願いいたします。
皆さま、お疲れ様です。ネット小説大賞運用スタッフです。
昨年10月から開催していた『ネット小説大賞』ですが、おかげ様で無事完結を迎えることができました。
1万作品をこえるご応募をいただき、開催初期からの夢であった大台をこえることができたことは、一重に参加者の皆様のご応援と、これまでの受賞者の方、協賛社の皆様の奮闘によるものであると感じております。
まずは御礼を言わせてくださいませ。まことにありがとうございます。
そういった意味で、『これまで受賞者』の一人(第四回ネット小説大賞で『白いしっぽと私の日常』でぽにきゃんBOOKS様より受賞)であったクロサキリク先生のグランプリ受賞は、個人として大変うれしく感じております。グランプリ受賞はゴールではありませんが、書き続けることが力になるといったコンテスト命題たる部分を、今回実現していただけたと考えております。
Web小説が隆盛していく中で、コンテストの意義を考えることもございますが、幾つかある意義のうち、もっとも大きなものは『文章を書き続けるきっかけを提供している』ことであると考えております。
忙しい日常や執筆上のトラブルなど、筆を折る機会は豊富にある中、書き始めることができるきっかけ、書き続けることができるきっかけはそれほど多くはありません。ネット小説大賞は『お祭り』としての皆様の共通認識があるからこそ、皆様が小説を『書き始められる』きっかけをご提供できているのであれば、我々といたしましても、それはとても嬉しいことです。
ネット小説大賞では、あるいは『小説家になろう』そのものでも、書籍化ジャンルは多様化しております。
『コンテスト向けじゃない』と、これまであきらめていた方も、ぜひこの機会に、『書き続ける』『読み続ける』ことをおこなっていただき、文化創出を続けられればと考えております。
願わくば『創作』『小説』といったジャンルを皆さまと永く、もっと楽しめることを祈りまして、今回のコンテストの締めとさせていただきます。
今回は、ご参加まことにありがとうございました。引き続き何卒よろしくお願いいたします。